大阪NPOセンター

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2016.11.11

「八百屋」で社会貢献!昔ながらのビジネスで、障害者や若者の雇用を生む

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大学時代に体験した"誰かに喜ばれる感動"が原点

八百鮮は、文字通り「八百屋」と「鮮魚」を合わせた野菜・鮮魚を扱う専門店。大阪市内の商店街に3店舗(福島区・西区・此花区)を有し、店頭では若い従業員たちが威勢のよい声で生鮮品を販売している。全従業員25人のうち5人は発達障害や精神障害を持つ障害者だが、健常者と同じように働き、同様の待遇を受ける。

「八百屋」という昔ながらのシンプルなビジネスで障害者や若者の雇用をつくり出し、商店街の活性化にも貢献する「八百屋で社会貢献」がモットーの企業だ。
「障害者雇用できる会社をつくりたい」いうのが、そもそものはじまり。
必ずしも八百屋である必要はありませんでしたが、一般の生活者と日常的に関わる接客サービスの部分と単純作業が混在する八百屋の仕事は、障害者の人たちが働くうえでさまざまな可能性を秘めていると思った」と代表の市原敬久さん。

勤めていた食品スーパーで学んだ生鮮品販売のノウハウを活かしての起業だったが、その原点は大学時代の体験にあったという。
市原さんは、大学時代のゼミで社会福祉施設を訪れた際、懸命に働く障害者の月給がわずか1万円だったことに衝撃を受けた。
障害者でも普通に働ける経営はできないのか―。
そんな思いから、ゼミ生が中心になって「NPO法人経営パラリンピック委員会」を設立。
そこで、さまざまな事例発表をもとに、福祉と経営の両立を学び合う活動を行った。
そして、卒業時には「いつか障害者雇用できる会社を自分たちの手でつくろう」とゼミ仲間たちと誓い合った。

その約束通り、市原さんがかつての仲間に電話をかけたのは社会人3年目の時。
集まった3人は、それぞれ別の道を歩んで社会に揉まれながらも、ある同じ思いを共有していた。

「僕らは大学時代の活動で、若輩の自分たちでも、誰かに感謝され、人の役に立つことができるという素晴らしい社会を体験したんです。
でも、いざ社会人になって働き始めると、そんなキレイごとはどうでもよくなる。
そこでは、売上げを稼ぐ人間が一番偉くて、上司とうまくできる人間が一番賢かったりするわけで、なんかこの社会はおかしなことになっているなと感じました。
社会人として、それなりの給料はもらっている。
でも、大学時代に感じた人に喜ばれる感動にはめぐりあわない。
そんな人生で終わってしまっていいのか。
社会人になってもやれることがあるはずだというのが、八百鮮を始めるきっかけでした」

古いものと新たしいものを融合して、新たな価値を創出

八百鮮は、2010年12月に1号店となる野田本店を出店。
障害者や若者の雇用の場づくりに励みながらも、助成金や行政の委託金などに頼らず、あくまでも株式会社として収益を上げ、2012年3月には2号店を出店。現在は、3店舗で年商約5億円を売り上げる。

大型スーパーなどが主流の今の小売業界で事業拡大を図るには、特別な秘訣がありそうに思えるが、その事業形態は中央卸市場から生鮮品を仕入れて、店舗で接客しながら販売するという至ってシンプルなもの。まさに、昔ながらの八百屋のビジネスモデルそのものだ。

「もちろん、利益を出す収益構造は僕がスーパー時代に学んだノウハウがあるのですが、基本的には特別変わったことをやっているわけではありません。他店よりも接客をフレンドリーにするとか、新鮮で品質のいいものにこだわり、お値打ち感があって、お店も床をキレイに磨いて清潔感があるとか、当たり前のことを当たり前にやるということを徹底して、他店がその努力を100やるなら、ウチは101やるという小さな差を大事にしている。仕入れも店舗での接客でも、とにかく義理人情でかわいがってもらう、強いて言えばその人間力が僕らの強みです」

そうした企業努力でしっかり収益を上げるとともに、八百鮮は3つの社会貢献を果たすことを目指している。
ひとつは、主要なお客さんである年配者を対象にした「高齢者に優しいお店づくり」(お客様)、もうひとつは「中央卸市場の活性化」(取引先)、そして「障害者や若者の雇用の場づくり」(従業員)だ。
事業を行う上で欠かせないこの三方を大事にできない会社は、ビジネスモデルがどれだけ優れていても上手く行かないという信念がある。

また、商店街のイベントや地元の盆踊り大会などにも全面的に協力。
地域活性化の一翼を担うほか、大阪市の「就職試験に落ちたくても落ちられないセミナー ~自然食を食べながら「働く」を考えよう~」で講師を務め、若者に食の重要性や労働の面白さを伝える活動なども行う。

八百鮮の事業は、一見すると、革新的なビジネスには見えない。
だが、「八百屋」という昔ながらのビジネス手法で社会貢献を目指し、また衰退する商店街に生き生きと働く若者を復活させるなど、古いものと新しいものを融合させることで新たな価値を生み出すところにその斬新さがある。

ミッションは、「障害者雇用」と「若者のきらめき」

今後、当面は新規店舗の出店予定がないが、目標とするのは八百鮮の社会貢献モデルを確立して、各地に広め、地域活性化の原動力となること。将来的には、現在の「八百屋+鮮魚」に肉部門も加えて、「八百屋+鮮魚+精肉」にもチャレンジしたいという。

ただ、そうした事業拡大も、会社の成長が目的ではなく、あくまでも障害者や若者の雇用の場を広げることが八百鮮の最大のミッションだ。
「今の社会では、障害者の人たちが健常者と同じように働ける場所が少なく、その不平等感にやるせなさを感じて立ち上げたのが八百鮮ですから、僕らの仕事は事業継続のための経済性を保持しながら、いかに障害者の人たちの働く場を作り出せるかにかかっている。
それと、僕らの若い世代は、物心ついた頃から不況や心の荒廃みたいなものを聞かされ続けてきたので、社会で働くことにどこかあきらめのような気持ちを持っている人が多い。
でも、若くても夢や志を持って働き、人に喜ばれる仕事はできる、たかが八百屋でもここまでできるんだということを見せていきたい。
障害者雇用と若者を輝かせることが、僕らのミッションだと思っています」

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