大阪NPOセンター

役立つ専門家の声

2018.12.13.22:00:00

社会起業家の取組事例vol.3(いえしまコンシェルジュ合同会社)

  大阪NPOセンター
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建築の先にあるまちづくり、暮らしのあり方

いえしまには、日本の未来を豊にするヒントがある

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▶信頼を得る地道な努力は島の哲学への共感から


移住して約4年。
「島にきた頃は、住む所もNPOいえしまを間借りしてましたし、仕事も斡旋してもらいなんとか生活できるといった状況でした」と話す中西さん。
いまでは島のアイドル(?)的存在だが、移住当初は少々不安も。

しかし、これまでの地道な活動が認められ、「ちょっと出かけるけど、なか見て行ってええよ」と鐵工所の職人さんから言われるほどの信頼を得ている。
ここはガット船(採石船)に積み込まれる石をつかみ取るツメを修理、製造しているところ。
巨大な鉄の塊、ジブリの映画に出てきそうな機材がいっぱい並べられている。
おそらく都会では部外者に決して立ち入りが許されるような場所ではないだろう。
また、一晩お世話になった旅館のおかみさんに「なかちゃんをよろしく~」と帰り際に声をかけられた。お礼のごあいさつを終えた後だったのでちょっと驚いたが、すっかり島に馴染んでみんなから愛されている中西さんの姿が目に浮かんだ。

 
これほど深く島の人たちに受け入れられる理由はどこにあるのだろうか。
もちろん移住までして地域の活性化に尽力する中西さんの献身的努力が評価されていることは間違いないだろう。
「ぼくにとっては家島が居心地よく、暮らしも合っているんだと思います」と。それだけだろうか?
 
お話をうかがうなかで徐々にわかってきたことがある。
それは、中西さんの建築に対する思いだ。

「建築はかつて、哲学者や数学者がやっていたんです。
いわゆる『総合哲学』として建築が認知されていた時代ですね」「階段の設置する場所ひとつで、人の生活に大きな影響を与えます。生活スタイルやものの考え方にまで」
、この人は本当に建築が好きなんだな、と感じ入った。
そして、その建築の延長線上にまちがあり、人の暮らしがある。
都市に乱立するビル郡に違和感を覚え、本来の総合哲学としての建築がどうあるべきなのか、まち、人の暮らしのあり方は、ということを追求しているタイミングで家島に出逢ったのだ。

「最近島の人に言われたんですよ。ここでは、社長もみんなと一緒に額に汗して働くんだって」と話す中西さんは、どこかうれしそうだ。
島の仕事観が「我が意を得たり」といったところだろうか。
都心部の建築に疑問を持つと同時に、そのなかでの「仕事のあり方」が人間本来の生き方が乖離している、と感じていたのかもしれない。
中西さんは、人の暮らし、仕事のあり方のヒントを家島で見つけた。

自立、スキルを売る、自分の仕事は自分でつくる、などのキーワードがみえてくる。明確な哲学をもった暮らしが、ここ家島にはあった。

▶いえしまの暮らし いつか日本のモデルへ
 
 中西さんが「いえしまコンシェルジュ」の仕事を通じて目指す方向はふたつある。

ひとつは、家島のファンを増やし島に人を呼ぶこと。
ファン、リピーター、移住へとつながれば理想的だ。
来島者が存分に楽しみ、島の人と交流することで、人の暮らしで本当に大切なことを思い出したり、なんらかの気づきがあればいい。
島の人たちは、外からの刺激を受け自分たちの暮らしのあり方を再認識する。
お互いに相乗効果を生む活動だ。

もうひとつは、島の魅力=島の暮らしの哲学を少しでも多くの人に伝えること。
島を訪れた人が、そこで得たものを自分の地域・生活に持ち帰り活かすこと。
そんな人が増えれば、日本の暮らしがいまよりももっとおもしろいものになるにちがいない、と中西さんは考えている。
 
いえしまコンシェルジュ合同会社は、法人としては設立1年のまだまだこれからの企業。
現在の社員は中西さんひとり。
これまでの活動で基本的な基盤はできている。
マスメディアの取材、webサイト、SNSを中心とした情報発信などを通じて知名度もアップ。
旅行会社からのオファーや自社サイトでの告知で集客には苦労していないという。

一方で顧客のニーズに応えきれていないというジレンマも。
引き合いが多い分、どうしても人手が足りなくなる。
ハイシーズンのツアーガイドは、いえしまのおばちゃんたちがコンシェルジュとしてがんばってくれるが、それでもひとりですべての業務を担うのには限界がある。

そこで当面の課題として上げられるのが、人員確保。
総務省が取り組んでいるプロジェクト「地域おこし協力隊」に申請中だそうだ。
首尾よく事が進めば、来春あたりに新しいメンバーと一緒に活動の幅を広げているかもしれない。
 
また最近は、空き家に関する相談が持ち込まれる機会も増えてきたという。
見ず知らずの人に家を貸したり売ったりするのはなにかと不安がつきまとう。
外部とのパイプ、豊富なネットワークを持っている中西さんなら間に立って調整してもらえる、との期待があるのだろう。
今後、建築家としての経験や知見を発揮して不動産業にも取り組んでいけば、大きな収益の柱になる可能性もある。
「ただ、長期滞在者や移住者が増えれば、それでいいのかという悩みもあります。人口減少、だから増やせ、という簡単な図式じゃ語れない部分も多くありますから」
と、単純に外部から人を誘致することを良しとしていない。

さまざまな課題を抱えながらも、地域の課題に真摯に取り組む中西さん。
家島の人たちだけでなく、島外にも多くの『共感』が生まれている。
家島といえしまコンシェルジュの中西さんの魅力が互いの良さを引き出しありながら、共感の輪がゆっくりと拡がってゆく、そんなイメージが楽しい。
日本が抱える社会課題に対するソリューションとして、いつか家島がそのモデルになることを期待したい。

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