大阪NPOセンター

役立つ専門家の声

2017.11.09.17:00:00

社会起業家の取組事例vol.2(認定NPO法人D×P)

  大阪NPOセンター
若者が未来描ける社会へ
かかわることに幸せを感じる場所に

認定NPO法人D×P(ディーピー/以下、D×P)は、通信制・定時制高校の生徒に人とのつながりと成功体験を届けている。目指すのは「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」。独自の授業プログラム「クレッシェンド」を中心に、日々高校生に向き合っている。

「クレッシェンド」とは、高校生が「コンポーザー」と呼ばれるボランティアとかかわりながら、自身の過去を受け入れ未來を描くことを目的とした授業だ。これまで約2100人の高校生に「クレッシェンド」を実施。現在、大阪府内の定時制高校の4割以上に導入されている。
授業では、高校生が「人とのつながり」をつくることが目標だ。簡単なゲームで打ち解けた後、コンポーザー自身のつらかった経験を聞く。家庭や人間関係のトラブル、挫折など、内容は様々だ。コンポーザーの過去と現在の生き方を知り、共感したり自分と重ね合わせたりして、高校生が自分の未来を考えるきっかけをつくる。

その後は「ユメブレスト」。就きたい職業といった「夢」だけではなく、やってみたいことなど小さなものも含めた「ユメ」を高校生も大人もそれぞれに発表する。自分の考えを表現し、受け入れられるという経験を得ることができる。
コンポーザーは対話を通じ、高校生を受け入れる存在だ。無理に話させたり、ワークへの参加を強要したりすることはしない。少しずつ、自分の言動を受け入れられる経験を重ねられるようにする。

授業では「否定しない」「様々なバックグラウンドから学ぶ」「年上・年下から学ぶ」の基本3姿勢を守ることを徹底する。コンポーザーは生徒に対し、「通信制・定時制高校生」としてではなく「一人のひと」として関わる。そして、高校生の経験や考え方からも多くのことを学んでいく。コンポーザーが「教師」として一方的に教えるという関係ではない。互いに理解しあい、学びあう関係だ。


挫折からみえた3つの基本姿勢

これらの基本3姿勢は、理事長の今井紀明さんの経験がもとになっている。18歳のとき、今井さんはイラクに渡り、武装勢力に拘束された。解放後、無事帰国すると、「自己責任」「恥さらし」といったバッシングが今井さんを襲い、ひきこもるようになってしまった。当時の高校の先生が手渡してくれた一冊の大学案内が今井さんの転機となる。留学生も多く、多様な文化を受け入れる文化が根付いた大学だった。新たな環境で友人や先生と打ち解けていくうちに、今井さんは日常を取り戻していく。
今井さんはバッシングの手紙や電話にも向き合い、イラクに行った理由や現在の取り組みなどを手紙につづり返信した。ある返事に、今井さんを非難するに至った個人的な事情が書かれていた。それぞれの人に様々なバックグラウンドがあることを知り、「バッシングをした人」という前提を持たず、一人の人として接すると決めた。「様々なバックグラウンドから学ぶ」という基本姿勢はこの経験からだ。

大学4年生のある日、同級生や1年生が自宅に集まった。語らう中で、「否定しない」というルールで自分のやりたいことを語ったとき、ひとりひとりが生き生きとした顔になった。「否定しない」という基本姿勢と、プログラム「ユメブレスト」はこの経験から来ている。
高校生に授業を届けるようになったきっかけは、通信制高校の先生から依頼を受けたことだ。今井さんらが教室に入ると、うつむいて目をあわせようとしない生徒たち。かつてバッシングを受けていた当時の自分と生徒の表情が重なった。かつての自分を思い出し、同じような通信制・定時制高校生の力になりたいと今井さんが決意した瞬間だった。この時の経験は現在のD×Pを形作る基礎となっている。

「寄付は安定財源になりうる」

現在、D×Pの財政は寄付収入が7割を占める。一般的に、寄付収入は不安定に思われがちで、安定した事業収入の獲得を勧められることが多い。だが、「寄付収入が不安定で事業収入が安定的とは必ずしも言えない」と広報・ファンドレイジング部 部長の入谷さんは話す。事業収入をメインにした企業でも業績が移り変わるように、NPOにおいても事業収入は変動する。寄付収入は、寄付をした方への情報公開と丁寧なコミュニケーションを行えば、安定的な収入にもなる。寄付や事業による収入を安定財源にできるかは団体次第だ。

D×Pでは、寄付のリピート率が高い。代表やスタッフがSNSで次々と新たな取り組みを発信するなど、常に成長を実感できることがリピート率の高さにつながっている。目に見える成果や次の取り組みが提示されることで、寄付者は新規事業への期待を抱き、自分の寄付がD×Pを成長させているという実感を得ることができる。
支援を依頼する際のコミュニケーション方法に葛藤もあった。入谷さんは広報をする上で、「高校生がいかに深刻な状況にあるか、いかにしんどいかを伝えることでしか、寄付なんて得られないよ」と周囲から言われていた。しかし入谷さんは、「高校生がいかにかわいそうか」を広報することで、「かわいそうな人」というレッテルを貼られてしまうことに抵抗感があった。当人である高校生がその広報メッセージを目の当たりにしたら、どう思うだろうか。



高校生のつらさより期待感伝えたい

高校生ひとりひとりが深刻な状況に置かれていることには変わりないが、一方で、彼らと関わるなかで様々な才能や強みを持つ可能性に溢れた存在であることも目の当たりにしていた。「"高校生を支援する"のではなくて、期待感を持って、ともに学び合い成長していく感覚を寄付してくださった方に伝えたい」と入谷さんは話す。高校生の深刻さに焦点を当てるのではなく、魅力を知ってもらおうと決意。ポジティブな側面を積極的に発信するようになった。事業拡大のため、新たな資金調達法を常に模索することも忘れない。
現在、D×Pの授業「クレッシェンド」は大阪のほか、京都・滋賀・和歌山・札幌・東京でも行っており、今後も質を高めながら拡大を進める方針だ。「クレッシェンド」がもたらすインパクトを数値かするチームも組成され、外部研究者とともに動き始めている。

2017年11月から、新たに就労支援事業も開始する。多くが高校卒業後就職する定時制高校で、就労相談や仕事体験ツアーなどを行う予定だ。
D×Pは、「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」を目指している。入谷さんは「ビジョンから照らしたとき、このままでいいはずがないという感覚がいつもある」と話す。理想が原動力となり、今後取り組みたいことが次々と浮かぶそうだ。「ビジョンは大きいが、絶対に達成できると思っています」と入谷さん。
目標に向かって前進し続ける姿が、D×Pにかかわる全ての人の心を動かし続けている。


【団体概要】
認定NPO法人D×P(ディーピー)
ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会を目指し、通信・定時制高校の高校生が、人とのつながりと成功体験を届けている。通信・定時制高校に特化した授業「クレッシェンド」などを行う。

(執筆者)
本田恵梨(大阪NPOセンターインターンシップ生)

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