大阪NPOセンター

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2017.11.01.17:00:00

社会起業家の取組事例(NPO法人スモールファーマーズ)

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生活変えずに農業学ぶ 自然に沿った生き方提唱

社会人向け週末農業学校「特定非営利活動法人スモールファーマーズ」(京都府宇治市)。今の仕事を辞めずに、週末だけで本格的に農業を学ぶことができる。「自分らしい生き方を見つけるきっかけになったら――」。理事長の岩崎吉隆さんの思いに共感し、全国各地から受講者がやってくる。

宇治市の農場は最寄り駅から徒歩10分。車でのアクセスも容易だ。座学と実習で、有機栽培での生産から販売までを教える。受講生には個人区画が与えられ、自由に耕作することができる。きゅうりやトマト、なすなど一年間の受講期間に約40種類を栽培する。

▲個人区画の耕作は各自に任せられる

開校は2013年。すべての授業には家族一人を同伴することができ、夫婦で通う人も多い。振替や休学の制度も整っている。農業を学ぶことを通して、自然に沿った生き方を見つけてもらうことを目指してきたという。毎年2月と8月に30組の受講生を募集。現在ではキャンセル待ちが続くほどの人気だ。
受講生の年齢層は20代から70代までと、幅広い。初心者はもちろん、すでに農業を生業としている人も。「基礎から農業をしっかり学びたい」「自分に農業ができるかどうか確かめたい」など、様々な目標を持つ人が集まる。農業を通じたつながりを持つことができるのも特徴。休憩中には同期や先輩と農業の話で盛り上がる、なごやかな雰囲気だ。受講生の一人は、「年齢や仕事は違うけど、同じ農業という目的を持った人と知り合える」と話す。先輩も同期も、心強い仲間となる。


ビジネスと農業がつながった

岩崎さんはもともと、自身で起業したITベンチャーを経営、その後独立。ITバブルに時代が湧き、インターネットビジネスでの成功に注目が集まっていた。岩崎さんもインターネット事業を軌道に乗せるが、次第にお金を稼ぐことに対する空虚感を抱くようになったという。仕事を辞め、自由な時間を手にしてみても、空しさは消えなかった。
そんな岩崎さんの転機は一冊の本だった。社会起業家について書かれた町田洋次の本に出会う。会社の利益のためだけでなく、社会課題解決のためにビジネスの手法を用いるという姿勢に興味を持ったそうだ。もともとビジネスが好きな岩崎さん。「これがやりたかったことだと思った」と話す。偶然、知人の勧めで家庭菜園や田植えにも触れた。「種をまいて芽が出るまで待つという感覚を忘れていた」と岩崎さんは振り返る。ITの世界では「待つ」ことは負けにつながる。岩崎さんの時間に対する考え方が一変したそうだ。自らの意識の変化をもとに、農業が持つ価値を広めるビジネスを模索した。
2007年には前身となる、株式会社マイファームを創業。耕作放棄地を初心者向けの体験農園として提供した。事業を通じ、より本格的に農業に取り組みたい人に対応したいという思いは強くなっていく。既存の一事業を独立させ、同じ志をもった仲間と共に「スモールファーマーズ」を立ち上げた。


自然に沿った自分らしい生き方を

岩崎さんのこだわりがつまった「スモールファーマーズ」。基本方針は「Small、Slow、Simple」で、授業や運営に反映されている。
「卒業生がどのような進路を選んでも対応したい」と岩崎さんは話す。自然を配慮しながらどこでも農業ができるようにと、持続可能性を軸に授業を行っている。授業で使う肥料も米ぬかなど、どこでも手に入るシンプルなものだ。
実際に、卒業生の進路は様々だ。「就農先を探したい」「田舎へ移住したい」など、岩崎さんはそれぞれに個別で応えている。農地の見学に同行したり、行政に提出する書類作成をアドバイスしたりと、手厚いサポートを行っている。
半年に1度、卒業生が集まる機会も設けている。卒業生同士で農業技術や情報を共有するなど、協力関係が続いていく。岩崎さんは「卒業後はみんな仲間になる。縦横のつながりを大切にしてほしい」と話す。

▲ 講義内容を農地で実践していく

事業として成り立たせることもこだわりの一つ。補助金や寄付には頼らず、事業費のほとんどを受講費でまかなっている。あえて事業も拡げないことも成功の秘訣。基本方針を守り、シンプルな経営スタイルを続け、適度な規模を維持している。
農業技術の習得だけではなく、生き方の変化を重視する「スモールファーマーズ」。岩崎さんは農業に無限の可能性をみている。「農業をやってみるといろんなことを感じる。行き過ぎた資本主義の違和感でみんなが悩むなかで、一つの生き方を見つけるきっかけに農業はなるのではないかと思う」。


【団体概要】
特定非営利活動法人スモールファーマーズ
週末だけで本格的に有機農業が学べる社会人向け農業学校を経営。初心者からプロの農家まで、年齢も異なる人々が集う。座学と実習で体系的に学び、卒業後も農地や販路、卒業生の紹介など、少人数制ならではの充実のサポートを受けられる。農業を通じ、自分なりの生き方を見つけてもらうことに焦点を当てている。


(執筆者)
本田恵梨(大阪NPOセンターインターンシップ生)

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